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イタリア伝統の手作業と幻の生地。
その2つがミックスされて生まれる奇跡のシャツ。

2017.09.08

大西陽一 大西陽一

イタリア伝統の手作業と幻の生地。<br>その2つがミックスされて生まれる奇跡のシャツ。

フィレンツェでアンナ・マトッツォさんにインタビュー後、いったいその工房はどうなっているのかを確かめにナポリに直行。

私は勝手にイタリアを代表するシャツ工房だから、銀座のテーラーのように路面店で全面のガラス窓がありディスプレーがされているような外観かな?と勝手に想像していました。

ところが、もらった名刺の番地の路面には店は見当たりません……。

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コーディネーターのイタリア人から工房は、この上ですよと言われ、日本では考えられない簡素なエレベーター(イタリアでは普通)で上階に。
イタリアではよくある天井の高いクラシックなマンションの一角が、工房兼アトリエでした。

ナポリに限らず、イタリアの有名サルト(オーダーのスーツ店)やカミチェリア(オーダーシャツ店)は路面にあることはごくまれ。

表に看板もなく、入り口の門の脇のインターホンに手書きで小さく名前が書かれているだけ。本当にここにあの巨匠のアトリエがあるの……と不安になりそうなたたずまいのところがほとんどです。

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それは、通りすがりの客を相手にしていないのと、家賃が安いこと、そして何よりお客さまの防犯上いい(路上にいるスリに目をつけられない)からです。
特にセレブの方々は、路面より上層階の部屋のほうが周りの人に気遣うこともなく、落ち着いてオーダーができるというわけです。

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アンナ マトッツォのショールームは、大通りに面した大きな窓のある部屋がショールームになっていて、棚やテーブルには発色のいい生地がナポリの太陽を受けて鮮やかに並べられていました。

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私も仕事柄そこそこのシャツ生地は見てきましたが、ここの生地は見るからに超高級。ブルーでグラデーションの違いのものがあるかと思えば、カプリ島などの高級リゾートに似合いそうなカラフルなストライプの生地もあふれていました。

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この日は、アンナ・マトッツォさんの次女のロミナさんが工房にいたので、どんなブランドがあるのですか?と尋ねてみると。

「いろいろありますが、デビッド&ジョン・アンダーソン、アルモといったイタリア製の生地が中心ですね。なかでもカルロ・リーバは、ほかにはないバリエーションがあると思います」

この高級シャツ生地の名前については、日本のオーダーシャツ店でもよく聞くブランドですが、ここはそのストック量が半端ではないのです。
特にカルロ・リーバは、生地の見本帳(バンチ)ではなく原反でストックをしていて、それも数が半端なくあるのです。こんな所は、イタリアでもまれ。

デビッド&ジョン・アンダーソンとカルロ・リーバは、シャツ生地界の東西の横綱的な存在。

その名前が示すようにデビッド&ジョン・アンダーソンは、1822年創業のイギリスを代表するシャツ生地工房でしたが、現在はイタリアのアルビニ社の傘下に入りイタリア製となっています。

もう一方のカルロ・リーバは、1943年イタリアの北部のスイスに近い湖水地方で創業。いまでも旧式の織り機を使い創業以来の製法を守っています。

糸は半年寝かしてから使い、ゆっくりとしか織れない旧式の織り機で織り上げます。仕上がった生地は、また半年近く寝かす……という話は有名で、これぞスローファッションの極み。

一般的にシャツ生地は、糸が細くなる(高番手)ほど手触りが紙のようにスベスベになり高級とされます。しかし現在の織り機で、細い糸で密に織ると生地の表面は均等で美しくても、着用するとシワが固く入ったり、原糸がもつ生地本来の柔らかさが失われると言われています。

これに対してカルロ・リーバは、超高番手や希少綿花を使うといったハイスペックに走ることなく、官能的な肌触りと、着用したときに独特の波打つような張り(ドレープ)が得られます。また細かなギャザーを入れたときには、エレガントな立体感が出ます。

まさに、イタリアでしか織れない官能的(セクシー)な生地なのです。

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その特性を最大限に生かしつつ、ナポリ流の柔らかく立体感のあるシャツを仕立てるには手縫いは不可欠だったのです。

工房側にお邪魔すると、金曜日の午後だったこともあり、職人さんは女性が2人とアンナ・マトッツォさんの次女ロミナさんしかいませんでした。

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工房は2畳ほどの作業台が中央にあり、ミシンが6台。

ロミナさんは、作業をしながら
「私の幼いころの遊び場は、この工房でした。そして小学校のころには、母に言われなくても自然と針と糸を手にしていました。まず初めに覚えたのは、ボタン付けでした」

絵に描いたような家族的な工房で、全員女性という環境がアンナ マトッツォのシャツとほかのシャツとの雰囲気の違いを生み出していたということがそのとき実感できました。

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ほかの有名なシャツブランドの工場にも多くの女性が働いているのを見たことがありますが、社長や営業は男性がほとんど。それはそれで、いい所はあり、トレンドには敏感で世界中で評価されています。

でも、アンナ マトッツォの工房は、男性はゼロ。

現在工房の運営は、マトッツォさんと2人の娘さんたちがやりくりしています(三女は大学生 )。

そこから生まれるシャツは、クラシックなデザインでありながら、ほどよく女性ならではの目線がプラスされることで独特の仕上がりになっているのでしょう。

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「私は、娘たちにこの仕事を継いでほしいと言ったことはないのですが、気がつくと2人の娘は仕事を手伝ってくれています。女性だけですが、喧嘩することもなく、うまくここまでやってこれました」。
フィレンツェでインタビューの終わりに、アンナ・マトッツォさんが笑いながら言っていたことを、工房の帰り道で思い出した。

彼女の笑顔の裏には、規模を大きくしないで自分たちのスタイルを貫いてきた、彼女のぶれない信念があったことが、そのときやっとわかりました。

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その後、伊勢丹新宿店(http://isetan.mistore.jp/store/shinjuku/index.html)で扱われている既成のアンナ マトッツォのシャツ(写真上左シャツ¥80,000、右シャツ¥65,000)をあらためて見直してみると……。
そこには、ナポリの工房で見たオーダーのシャツの仕上がりと同じ、ナポリの伝統的な手仕事を随所に発見できました。

叔母の工房で基礎を学び、ロンドンハウスで15年以上働きナポリの伝統的な秘伝の技を身につけ、その後独立するとその伝統に彼女ならではのアレンジをプラスし、世界中を見渡しても類を見ないシャツをアンナ・マトッツォさんは完成させたのです。

以前、私は日本のシャツ工場でカルロ・リーバの生地を使い、4~5カ所くらい手縫いを入れてシャツをつくったことがありました。
その仕上がりは、価格は若干日本製のほうが安くは仕上がりましたが、既成のアンナ マトッツォのシャツと比べるとまったく別物でした。

そんなことを、思い出しながらアンナ マトッツォの工房から駅に向かってを歩いていると、ナポリまで来なくも絶滅寸前のナポリシャツがオーダーできるなら10万円を払うのも悪くない……という思いが自然と湧いてきました。

<お知らせ>
2017年9月29日~10月1日に、伊勢丹新宿店にアンナさんが来日。自ら採寸し仕立ててくれるオーダー会を開催します。価格は85,000円(消費税別)からで、お渡しは約4カ月後。事前予約が必要なので、興味がある方は伊勢丹新宿店メンズ館1階 03-3352-1111 (大代表)まで。

プロフィル
大西陽一(おおにし・よういち)
数々の雑誌や広告で活躍するスタイリスト。ピッティやミラノコレクションに通い、日本人でもマネできるリアリティーや、さりげなくセンスが光る着こなしを求めたトレンドウォッチを続ける。

Photograph & Text:Yoichi Onishi

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