特別インタビュー

世代をつなぐバッグ、『キャリーオール』。

2021.05.10

ファッションエディターの審美眼にかなったいま旬アイテムや知られざる名品をお届け。

400_2021_2_8_ASMstill1892
軽くて雨や衝撃に強い「バチュー・クロス」と、使うほどに味わいを増すベジタブルタンニンレザーを組み合わせた、上質なつくりが自慢。キャリーオール(W38×H26×D9㎝)¥165,000/ハンティング・ワールド(ハンティング・ワールド青山店 03-3486-8818

色あせた記念写真に写っている、僕がまだ小さかったころの父親は、大きな襟のスーツにティアドロップのサングラスというエッジの利いた格好で、ハンティング・ワールドの『キャリーオール』に自慢のカメラを収納していた。

そう、1976年生まれの僕にとって、『キャリーオール』とは父親世代のバッグ。無性に欲しくなったり、あえて避けたくなったりを繰り返しつつも、常に視界には入っているという、ちょっと厄介な存在なのである。

そういえば地方都市のチーマーだった3つ年上のいとこも、まだアメリカ製だったヘインズの白Tシャツとストーンウォッシュのリーバイス501®という、いまにして思えば無防備すぎる着こなしにこいつを合わせて、地元のコンビニにたむろしていたっけ。

そんな愛憎半ばするバッグを僕が手に入れたのは、4年ほど前。「1970年代後半のニューヨークトラッド」という、ニッチな設定のスタイルに合わせるために、わざわざ買ってしまったのだ。ビスポークしたフレアパンツのコーデュロイスーツに、ローデンストックのティアドロップサングラス、とどめに『キャリーオール』という格好は、海外コレクションではスナップされまくったし、われながらハマったのでは!?

でも、あとでInstagramにアップされた写真を見て仰天。そこには、あのころの父親にそっくりなオジサンが写っていたのである。血は争えない……!

なんだかうれしくなって、それ以来毎日このバッグを持ち歩いている。意外なことに、最近は再ブームの兆しもあるそうで、ついこの間も、たまたま立ち寄った吉祥寺のカフェで、若いスタッフに褒められたばかりである。

「うわあ、いいなあ。僕もお金あったらめちゃくちゃ欲しいんですよ!」

僕のバッグを手に取る彼の装いは、まるであのころの渋カジだ。自己満足といえばそれまでだけれど、そんな、ささやかな「物語」を紡いでいけることが、トラッドの魅力なんだろうな。

山下英介(やました・えいすけ)
ライター・編集者。1976年生まれ。『LEON』や『MEN'S EX』などの編集や、『MEN’S Precious』のクリエイティブ・ディレクターに従事した後、独立。趣味はカメラと海外旅行。

掲載した商品はすべて税込み価格です。

<<ブルネロ クチネリ=2021年の「ニュートラ」説。 はこちら

「アエラスタイルマガジンVOL.50 SPRING / SUMMER 2021」より転載

Photograph: Yuji Kawata(Riverta Inc.)
Styling: Eiji Ishikawa(TABLE ROCK.STUDIO)

あなたへのおすすめ

トレンド記事

  1. 「帝国ホテル 東京」のオーチャード。<br>すべて実食! 自慢の手土産 #146

    「帝国ホテル 東京」のオーチャード。
    すべて実食! 自慢の手土産 #146

    接待と手土産

    2025.05.01

  2. ジル サンダーの美意識が息づく、<br>上質なポロシャツを銀座で。<br>ファッショントレンドスナップ212

    ジル サンダーの美意識が息づく、
    上質なポロシャツを銀座で。
    ファッショントレンドスナップ212

    カジュアルウェア

    2025.04.30

  3. パールを生かしたミニマルで妖艶なデザイン。<br>【板垣李光人とジュエリーの凛々しき輝き。】

    パールを生かしたミニマルで妖艶なデザイン。
    【板垣李光人とジュエリーの凛々しき輝き。】

    小物

    2025.04.30

  4. 界 霧島<br>雄大な霧島高原を見晴らす宿で名湯

    界 霧島
    雄大な霧島高原を見晴らす宿で名湯

    週末の過ごし方

    2025.05.02

  5. 「恋しているハンサムな男は、僕の実像ではないんだ」<br>悪役で新時代を謳歌(おうか)するヒュー・グラントの告白。

    「恋しているハンサムな男は、僕の実像ではないんだ」
    悪役で新時代を謳歌(おうか)するヒュー・グラントの告白。

    週末の過ごし方

    2025.04.25

紳士の雑学