週末の過ごし方

3%台の超難関テスト、出費、体力消耗……
過酷な女子プロゴルフ界で際立つ鉄人・小祝さくら。

2022.06.15

女子プロゴルフの世界は過酷だ。現在の規定では、最終プロテストに合格するなどした日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)の正会員でなければ、レギュラーツアー、下部のステップ・アップ・ツアー、ツアー予選会(QT)など、協会公認の試合には出場できない。プロテストには例年600人以上が受験するが、1次予選、2次予選を経た最終プロテストの合格者は20位まで。つまり、合格率は3%台の超難関だ。昨今では、高校の全国大会優勝者らアマチュアの実力者が不合格になるケースも出ている。

合格者たちは、毎年実施されるQTでもふるいにかけられる。先輩の正会員たちも含めて、シード権(レギュラーツアー出場権)を持たない選手たちが集う試合だ。現在の正会員は約1100人で、昨年11月に実施された1次QTには265人が出場した。12月の最終QTには96人が出場し、このうち翌年のレギュラーツアー前半戦に安定的に出場できるのは上位40人程度。これにシード選手50人程度、準シード5人程度、主催者推薦で数人、アマチュア数人を加えて、3日間競技の各試合は実施される(4日間競技ではQT枠、主催者推薦枠を拡大)。
※3日間競技は金曜日から日曜日まで、4日間競技は木曜日から日曜日までの日程で開催される

つまり、レギュラーツアーに出場している選手は、エリート中のエリートなのだが、各試合とも予選通過(3日間競技で50位タイまで、4日間競技で60位タイまで)をしなければ賞金はゼロ。交通費、宿泊費、帯同キャディーへの支払いなどで1試合につき20~30万円の出費があるため、出場はできても赤字という選手も少なくない。所属契約やスポンサー契約があれば、経費面での不安は軽減されるが、実積や話題性がなければ、企業側からのオファーはない。見ている側は、年間で1億円、2億円を手にする上位選手に目が行きがちだが、豊かな生活ができる選手はごく一部。それが現実だ。

過酷さは体力面にもある。レギュラーツアーは、3月から11月末まで、ほぼ毎週開催される。3日間競技だと火曜日から、4日間競技だと月曜日から、競技前にコースで練習ラウンドをする選手もいる。1ラウンドにつき10キロ以上を歩き、試合が始まれば神経をすり減らす。心身ともに大変な負荷がかかるが、それを142試合も続けた若手選手がいる。渋野日向子、原英莉花らと同じ1998年度生まれの「黄金世代」の小祝さくらだ。

小祝は、高校卒業後の2017年度のプロテストに一発合格。QTを経て2018年の開幕戦からレギュラーツアーに本格参戦し、約4年をかけて142試合連続出場を果たした。この記録は、表 純子(241試合)、北田瑠衣(154試合)、飯島 茜(143試合)に続き歴代4位となる。疲れ知らずの小祝は、記録が途切れることになる今年5月のリゾートトラストレディス開幕前日の公式会見で、「1年目は夏に体重が落ちて過酷に思いました。ただ、2年目に向けてオフからトレーニングをするようになって、大丈夫になりました」と話すと同時に、疲れを残さずに高レベルのパフォーマンスを継続できる秘訣(ひけつ)を「たくさん食べることです。特に夏は好きなものをどんなに食べても体重が増えないのでうれしいです」などと明かしていた。

そして、小祝は同大会で優勝を飾った。ツアー通算7勝目にして今季初勝利。一夜明けた30日には、あわだだしく海を渡った。自身で連続出場記録を止めた理由は、全米女子オープン(6月2~5日)に出場するため。海外メジャー5戦のなかでも、最も権威があるとされる同大会には、日本勢15人が出場。小祝は、前週に日本で試合出場して現地入りした唯一の選手だった。それでも疲れを見せず、日本勢最高の20位。さらに翌日には、6月9日開幕の宮里藍サントリーレディスに出場するため、帰国便に搭乗した。

結局、小祝は日米の144試合に連続出場をした。「優勝賞金でぬいぐるみを買いたいです」と話すなど、独特の感性で発するコメントも魅力的なほんわかキャラだが、故障知らず、疲れ知らずの24歳。国内女子ツアーの公式記録には残らないが、その隠れた連続出場試合記録は、小祝の思いひとつで更新されていく。まさに鉄人だ。

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