紳士の雑学
原宿から世界へ 日本ポップカルチャーの旗手が語る
「人がメディア」の時代のカルチャーとビジネスと。[後編]
2017.09.05
前編では、アソビシステム設立の経緯から仕事への意識、そして原宿のポップカルチャーシーンを発信していくとはどういうことなのかを語ってもらった。後編は、さらに中川さんが捉えるいまの時代のメディア論、コミュニケーション論へと深化していく。
個の時代、人がメディアの時代。
──なぜうそのないストーリーが重要なんですか?
いままでって食べ物にせよ、ファッションにせよ、人にせよ、メディアのマスのパワーで少し強引に作っていった部分がある思うんですよね。それがぜんぶうそとは言わないですけど、ちょっと無理に作っていった部分があると思うんです。
でも、いまは個の時代。SNSがこれだけ発展すると、個人個人の発信によってあらゆる情報が伝わっていく時代になってきていると思っています。
たとえば若い人たちはインスタグラムでレストランを探すんですよ。自分が気になる人がアップする写真を見て決めてしまう。
完全に「人がメディア」になっているんですね。
だから人をプロデュースするときも、その人自身がもっているものが大切だと考えています。その人がもっているものを広げるのを手伝うっていうイメージです。
──個の時代のビジネス展開とは?
いままでだったら本は出版社、車は自動車メーカー、食べ物は飲食業、いろいろな業界がそれぞれにやってきました。
でも、個の時代のいまは、発信力がある人がいたら、その人のライフスタイルが洋服のブランドになったり、飲食店になったり、メディアになったり。
アソビシステムの事業がいろいろな分野にまたがっているのは、それぞれの分野ありきではなく、人からの横軸展開だからなんです。
──既存のメディアは消えていくとお考えですか?
若い人たちって、なんでもググって目的をダイレクトに取りに行くことが当たり前になっていますよね。
そうすると雑誌なんかを、とりあえずパラッと読んでみるって感覚で買うことがなくなってくるんですよね。何かの目的を持って買いに行くという感じなんで。
でも、YouTubeが出てきたらテレビはなくなるとか、SNSで雑誌がなくなるみたいな対立構図ではないと思うんですよ。
そうではなく、テレビや雑誌の価値も変わっていくんだと思うんです。
1億2000万人に向けて発信していたものが、この番組は20代のこういうライフスタイルの男性に向けたものとか、もっと狭いターゲットに絞っていっていいんじゃないかなって。
雑誌にしても、いまって大量に刷って、いろいろなところで販売して、その半分売れればいいってやり方ですよね。
でも、それなら最初からターゲット絞って、コミュニティー、個に深く届く情報を出せばいいと思うんですよね。マスよりも個のパワーなんで、小さなコミュニティーに対して発信するのが大切なんじゃないかなって。
名刺で仕事をしない。個の時代のコミュニケーション論。
──個の時代に仕事をしていくうえで特に大切にしていることってありますか?
すべては人なので、人を大切にするっていうことは常に考えています。
いろいろな人に出会えたことによっていまがあるので、自分ひとりでやってきた会社だなんて思ってないですね。
そして、名刺で仕事をしない、人を勝手に判断しない。人の否定をしないでその人その人にきちんと向かい合うこと。
かつて、自分たちが役職やら会社の名前で判断されるってことを経験したので、そういうことで判断してはいけないなという思いが強いんです。
そうしているからか、いろんな目線の人と話せるという自信はありますね。それこそ政治家でも原宿にいる若い子たちでも同じように話せるんです。
2020、その先へ。
──最後に、今後の目標について教えてください。
2020年って日本にとって、とても大事な年になると思うんですけど、このままだと2020年がゴールになってしまうんじゃないかなと思っています。
僕たちはそのあとに何を作れるか、何を残せるかが大事だなと思っていて、2021年に何をやっているんだろうと意識していますね。
あともうひとつ。まだ漠然としていますが、街づくりをしたいと考えています。
日本の再開発って、ぜんぶ壊して新しいものを建てるスクラップアンドビルドが多いじゃないですか。
でも海外の街に行くと、きちんと古い街並みが残っていて、いろんな文化が引き継がれているなあって。
いまって、人がメディアの時代なんで、その街のよさをもう一回再発見できたら、各地でいろんなことができると思うし、新しいことが始まっていくんじゃないかなということを漠然と考えていて。
まだこれからの話ですけど、何かやっていきたいなという思いはありますね。
プロフィル
中川悠介(なかがわ・ゆうすけ)
アソビシステム代表取締役社長。1981年、東京生まれ。イベント運営を経て、2007年にアソビシステムを設立。「青文字系カルチャー」の生みの親であり、原宿を拠点に地域と密着しながら、ファッション・音楽・ライフスタイルといった、原宿の街が生み出す“HARAJUKU CULTURE”を、国内はもとより世界に向けて発信しつづけている。自主イベント『HARAJUKU KAWAii!!』を11年から全国各地で開催し、近年は、KAWAIIのアイコン・きゃりーぱみゅぱみゅのワールドツアーを成功させた。新プロジェクト「もしもしにっぽん」を発表し、日本のポップカルチャーを世界へ向け発信すると同時に、国内におけるインバウンド施策も精力的に行っている。また、きゃりーのプロデューサーでもある中田ヤスタカと共に未成年でも楽しめるクラブイベントを神社、世界遺産などさまざまな異色のロケーションで開催するなど、地方創生にも力を入れている。
Photograph:Shota Matsumoto
Text:Kota Shizuka