旅と暮らし

上原ひろみとのデュオ・ツアーで情熱的な表現を披露した
コロンビア出身の超絶ハープ奏者が来日

2018.03.14

写真・図版 内本 順一

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音楽はテクニックじゃないと日ごろからそう思っているが、超絶的なテクニックによる演奏を目の当たりにして驚き、高揚し、そこから感動に至るということも確かにある。見たことのないものを見て驚いたり圧倒されたりすること。人は元来それを求めている生き物なのかもしれないし、そういう体験をしてカラダが震えたり涙が出てきたりすることもあるものだ。

エドマール・カスタネーダという南米のハープ奏者を自分が知ったのは、ご多分に漏れず昨年の上原ひろみとのデュオ・プロジェクトによってだった。2014年にはブルーノート東京でゴンサロ・ルバルカバとの共演ライブを行ったりもしているが、そのころはまだ知らなかった。音を聴いたのは「上原ひろみ×エドマール・カスタネーダ」の『ライブ・イン・モントリオール』(2017年6月30日、カナダはモントリオール・ジャズ・フェスティバルでの実況録音盤)が初めて。ナマで体感したのは昨年9月、銀座の王子ホールで行われたショーケース・ライブが最初で、続いて12月に、すみだトリフォニーホールで正式ライブを観た。ライブ盤を聴いたときから「こりゃあすごい」と思ったが、ナマで体感しての驚きと感動はその比じゃなかった。ハープ(*エドマールが弾くのはアルパと呼ばれる南米のハープで、クラシック音楽で使われるグランドハープよりもだいぶ小さい。グランドハープがまろやかな音を出すのに対し、強く輝くような音を出す)の構造や音の鳴り方をろくにわかってない自分ではあったが、それでもこの楽器をこんなふうに弾けちゃう人はそうそういないはず、世界にはまだまだとてつもない演奏家がいるものだなぁと思ったものだった。

エドマール・カスタネーダは南米コロンビアのボコタ生まれで、3月末に30歳になる。『ライブ・イン・モントリオール』のリリース時に上原ひろみに取材した際、コロンビアや隣国のベネズエラではもともとアルパが生活に根付いた楽器としてあり、それに合わせてみんなが踊ったりしていて(沖縄における三線のようなものだろうとも言っていた)、エドマールは「これは僕の楽器だ!」と思って弾きはじめたということを教えてくれたが、確かに彼がじゃらじゃらとアルパを弾くと、それは優美なだけでなく、踊りたくなる感覚もそこに表れる。そんなエドマールは伝統音楽のムシカ・ジャネーラを学んだあと、デューク・エリントンやチャーリー・パーカーを聴いてジャズにとりつかれ、16歳でニューヨークに渡ってジャズの世界へ。キューバ出身のサックス奏者パキート・デリ・ベラに認められてからカーネギー・ホールに出演し、世界各地のジャズフェスにも出演するようになって、一気に注目を集めることになった。これまでマーカス・ミラー、ジョン・スコフィールド、先述のゴンサロ・ルバルカバらと共演し、ソロ名義のアルバムも数作出しているが、日本にもその名前が浸透したのはやはり昨年の上原ひろみとのデュオ・プロジェクトだろう。

ちなみにその上原ひろみは、2016年のモントリオール・ジャズ・フェスティバルでエドマールのソロステージを袖で観ていて衝撃を受けたそうで、「ただごとじゃない事態が起きているように感じた。まさに“未知との遭遇”」と取材時に話していた。また「彼の音と演奏に対するエネルギーレベルに自分と近いものを感じ、一緒にやったらきっと面白いものになるなと思って」、終わったあとで連絡先を交換。その1カ月後にはもうニューヨークのブルーノートで初共演していたそうだ。

エドマールの何がすごいって、ベースライン、メロディー、テンション・コードを同時に演奏すること。右手でコード的な音を出して、左手でベースみたいな音を出す。ハーピストとベーシストの二人が一人のなかにいる感じだ。また爪弾き方もいろいろ変化させて、さらにまた別の楽器(例えばギター)のような音も出す。一般的にハープといえば優美で繊細というイメージがあるが、そういう優美さと同時にラテン的なリズム感やらジャズのインプロビゼーション特有のスリルやらといろいろもっていて、ひと言で言えば変幻自在なのだ。しかも彼は、とっても明るい。たまにMCを振られたりすると、ずっとニコニコ。上原は愛情込めて「太陽の子、エドマール」なんて言っていたが、まさにそんな感じだ。

そういう彼の極めて独創的なスタイルが誰に近いかといえば、楽器こそ違えどやはり上原だろう。変幻自在の弾き方と、自身も認めるとおりの桁外れなエネルギー量。12月のすみだトリフォニーホール公演を観た帰り、「すごかった。2頭の音楽怪獣が暴れているみたいだった」と自分はツイートしたが、自由な演奏スタイルに通じ合うもののある二人は大げさじゃなくそんなふうだった。また、攻め上手でありながら受け上手でもあるのも二人に共通するところだろう。だから決して音がぶつからない。こういう攻めがきたらこう受けて、こう返すことでこう膨らませる。例えばアルバム『ライブ・イン・モントリオール』にジャコ・パストリアスのような演奏を聴かせる「フォー・ジャコ」と題された曲があって、そこでエドマールがアルパをベースのように弾くと上原もまたピアノでベースのように弾き返し、その丁々発止の面白さから観客に笑いが起きたりしているのだが、そのやり取りのすごさ、攻めと受けの見事さを実際に観ると、確かに思わず笑いだしてしまうほどだ。

今回これを書くにあたってエドマールの過去作を聴いたりYouTubeにあがっていたいろんなライブ映像を見てみたりしたのだが、エドマールのそういう攻めと受けの絶妙さは、当然相手が代われば代わったなりの形で表れていた。そして5月に決まった来日公演は自身のユニットによるもので、それはサックス、ドラムス、ボーカルと彼という編成。アンドレア・ティエラという女性歌手はコロンビアのメデリン出身で、やはりジャズとラテン音楽のミックス加減がユニークな人だが(エドマールの2009年作『エントレ・クエルダス』や2015年のライブ盤『ライブ・アット・ザ・ジャズ・スタンダード』に参加)、そのボーカルとアルパがどう合わさるのかも楽しみだし、シュロミ・コーエンというサックス奏者(同じく2015年のライブ盤に参加)との押し引きのあんばいもまたよさそうだ。上原とのときとはまた異なる、この編成ならではのエドマールの情熱表現を楽しみにしたい。

プロフィル
内本順一(うちもと・じゅんいち)
エンタメ情報誌の編集者を経て、90年代半ばに音楽ライターとなる。一般誌や音楽ウェブサイトでCDレビュー、コラム、インタビュー記事を担当し、シンガーソングライター系を中心にライナーノーツも多数執筆。ブログ「怒るくらいなら泣いてやる」(http://ameblo.jp/junjunpa)でライブ日記を更新中。

公演情報
EDMAR CASTANEDA
エドマール・カスタネーダ

公演日/2018年5月1日(火)、2日(水)、3日(木・祝)
会場/ ブルーノート東京
料金/ 8000円(税込)
その他詳細についてはこちら
http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/edmar-castaneda/

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