紳士の雑学

成功者たちは、なぜ女性テーラーを訪ねるのか?
─勝 友美が作るヴィクトリースーツの秘密─【前編】

2019.04.01

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1000名以上ものエグゼクティブが支持するその魔法のようなスーツ。作るのは勝 友美。紳士服業界では珍しい女性テーラーだ。彼女の名字をもじったのか、いつしかそのスーツは「ヴィクトリースーツ」と呼ばれるようになった。

約150名の紳士淑女、その共通点は?

ヴィクトリースーツの話は、以前から耳にしていた。「そのスーツを着ると仕事がうまくいく。出世もするし、女性にもモテるようになる」と、まるで漫画か映画か、あるいはオカルトのようなうわさ話と共にだ。1000名以上の顧客に支持され、リピーターが後を絶たないという。顧客リストにはこれまで有名テーラーで何着も仕立ててきたオーダー熟練者の名前があるとも。しかも、そのテーラーは若い女性と聞いて耳を疑った。仕立て屋とは、長年修業して身につけた技術をもってようやく独立し、ハサミと針と糸を駆使して生きる職業ではなかったか。

「レ・ミューズ」は日本人初の女性テーラー・勝 友美さんがオーナーを務めるオーダースーツ店である。大阪の淀屋橋、東京の六本木に店を構えている。彼女は針を持つわけでも、ハサミを握るわけでもないので、正確にはモデリストと表現していいだろう。

この店でヴィクトリースーツを注文すると、ヴィクトリークラブに入会することができる。会員、つまりこの店でスーツを仕立てた起業家や若き経営者、士業や個人事業主の異業種交流会。それは、さながらイギリスのジェントルマンズ・クラブを彷彿とさせる。昨年、東京と大阪で開かれたレセプションには「同じ店でスーツを仕立てている」という共通点を持つ人たちが、総勢150名以上も集まった。

メンバーズカードの裏面には、氏名とともにもうひとつ空欄があり、そこには「人生の目的地」と書かれている。将来なりたい自分、たどり着きたい憧れの場所・地位を記すのだという。自分ならなんと書こうか悩んでいたら、「皆さん、スラスラとお書きになりますよ」と彼女はほほ笑んだ。

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顧客の内面に向き合い、圧倒的な時間を割く

六本木交差点からほど近いここには、かつてタオルとバスローブの専門店があった。2階のアトリエで出迎えてくれた勝さんは、ドーメルの新作生地をスキニーなスーツでまとった、すらりとした美人。内巻きにしたロングヘアと長いまつ毛は、どこか六本木風だが、話を始めると空気が変わった。

「私のことをコンサルか何かと勘違いされてしまうのはちょっと困ります。私は服をお仕立てする、あくまでテーラーですので」

初めにそう話したのは、一昨年に上梓した自著がビジネス本として話題になったことで、コンサルタントあるいは自己啓発のセミナー講師の依頼が舞い込むことがあるからなのだろうか。だが我々の「採寸シーンを撮影したい」との要望に、メジャーを手に取ると流れるような所作で数字を読んでいく。しかも各部の補正について、ときにはイラストを描いて事細かに説明を加えながらである。ここでは特殊体形補正の箇所が多く、しかも1ミリ単位で補正する、ほぼ完璧なフルビスポークなのだ。

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「100人いたら体形は100人違いますよね。全員が袖口13センチでいいはずがないし、ふくらはぎだってせめて5ミリ単位で補正したい。だから何ミリで工場に発注するかは特に気を遣います。常にミリ単位で勝負しているんです」 

接客の半分以上は数字の調整にかける。しかもお客さまが帰ってからオーダーシートを眺めて、さらに1ミリ削るべきか否か、シートを工場に送る直前まで悩み抜く。

ひとりの顧客に掛ける時間と熱量は、一般のテーラーのそれをはるかに凌ぐ。なぜ、そこまで時間を掛けるのですか? と聞くと、「よそは、そんなに時間を掛けないんですか?」と、きょとんとした顔で逆に尋ねられた。

後編に続く>>

<プロフィール>
勝 友美(かつ・ともみ)
兵庫県宝塚市生まれ。神戸松蔭女子学院大学短期大学部卒。2013年に高級オーダーメイドスーツを取り扱うミューズを立ち上げる。現在、店舗は大阪本店と六本店の2店舗。著書に『営業は「バカ正直」になればすべてうまくいく!』(SBクリエイティブ刊)がある。

Photograph: Hiroyuki Matsuzaki(INTO THE LIGHT)
Text: Yasuyuki Ikeda(04)

※アエラスタイルマガジンVol.42からの転載です

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