特別インタビュー
忘れていたブーツの思い出。
[渋谷直角 男が憧れる、男の持ち物。]
2019.12.18
多才でいてファッションフリーク、渋谷直角の愛用品からそのセンスを探ってみる──。
年々、ブーツを履かなくなった。ラクですぐ履けるスニーカーばかり選びがちで、ブーツは誰かの結婚パーティーのときくらい。着脱も面倒、普段履かないぶん革が固いままで擦れて痛い。ますます履かなくなる悪循環に。
それでも、年内には新しいブーツを買いたいと思っていて。というのも、先日20代の人と会ったとき、以前より痩せていたので「ダイエットしたの?」と聞いたら、「実は好きな人ができて、その人とごはんを食べに行っても緊張してぜんぜん食べられず、痩せてしまった」と。その話が(うわ、そんな時期、自分にもあったなあ!)と感動してしまったのだ。若いころはごはんにさほど興味がなくて、「おいしい」よりも「たくさん食べられる」「肉があればいい」とか、ひどくシンプルだったし、ファストフードでもチェーン店の食べ放題でも立派なデートだった。トシをとってくると、おいしい食事や変わった料理自体がデートには重要になってきて、「予約取れたから」と誘う口実にもなる。「緊張して食べられない」なんて、何年もないな……と新鮮な気持ちになったのです。忘れていた細かい気持ちのディテールを思い出させてくれた。
芋づる式に思い出したのがブーツのこと。初めて自分のお金でブーツを買ったのは高3。そのときは王道のブーツを履こうと思って、原宿と渋谷、代官山を探しまわって気に入った形のモノを買った。それ以来、そのブーツは宝物のように大切に履いたし、願書を取りに行くのも、受験も入学式も、初デートのときも。ちょっとの緊張感と、「行くぞ」と前向きな気持ちがないまぜになりながら家を出るときは、いつもブーツだったな、と思い出したのです。あのときの気持ちでまた、ブーツを履きたいと思う。若ぶりたいわけではなく、「ラク」に流されると、いろいろなことを忘れてしまう。それも寂しいよな、と思って。
Photograph: Tetsuya Niikura(SIGNO)
Styling: Masahiro Tochigi(QUILT)
Cooperation: AWABEES