特別インタビュー
人生という絵を自分で描くために。
そうだ、新しい時計を買おう
2021.01.19
腕時計が時刻を確認するためのものであることは、言うまでもありません。だからこそ各ブランドは、精度や視認性や機能を競っているのです。
改めて考えてみましょう。時計の役割は、それだけでしょうか? 問うた直後に回答してしまえば、「腕時計は時刻を知るためだけのものにあらず」だと思うのです。
男性ビジネスマンの皆さんは、乗っているクルマと着けている時計について、「なぜそれを選んだのか?」を問われた機会があるでしょう。それは、どのブランドのクルマや時計を選ぶかによって、その男性のキャラクターが透けて見えてしまうからです。「なるほど、あなたは質実剛健な人だ」とか「意外にもエレガントさを重視するのですね」といった具合。
今年の新作時計には、いくつかの潮流があります。ブランドのアイコンと言える名作を進化させた腕時計、陰鬱(いんうつ)な時代を切り開く鮮やかな色文字盤、実用的な機能の強化、レトロな時代へのオマージュ。腕時計とファッションが、より近くなっているのを感じます。
先日、ある時計ブランドの社長をインタビューする機会がありました。そのときにハッとさせられたのは、「スマホやスマートウォッチと争って、腕時計が時刻の正確さを競う時代は終わった」という言葉。「では、何を追い求めるのか」と問うてみました。返ってきた回答は明快でした。「モノ語り」。つまり、ブランドのアイデンティティを追求することが、これまで以上に、ますます大切になるという意味でしょう。
「モノ語り」は、腕時計を選ぶ私たちの側にもあります。どんな腕時計を、なぜ選び、誰と、いつ購入したのか。その時計と共に、どのように時を刻んでいくのか。そして、誰に譲るのか。
そう考えると、腕時計を選ぶことは、人生を選ぶことと似ています。もちろん、偶然の出合いや予期せぬ展開もあるでしょう。それでも、いろいろな選択をして、1分、1時間、1日、1年と時間を進めていくのは、自分自身です。 昨年、30年以上続けてきた社員編集者の人生にピリオドを打ち、新しいチャレンジを始めました。スタートしてみると、1時間、1日の意味が、以前とは異なっているのに気が付きます。何をやりたいか、誰と進めるのか、いつやるのか、そして何ができたのか。毎日毎日がクッキリと違う色で、描かれていくのです。
自分自身の「モノ語り」を、共に刻んでいく腕時計。そんな新しい相棒が、ちょうど欲しくなってきました。
服飾ジャーナリスト 山本晃弘(ヤマカン)
AERA STYLE MAGAZINE創刊編集長。現エグゼクティブエディター兼WEB編集長。現在は服飾ジャーナリストとして、ビジネスマンのリアルな視点に応える執筆活動を行っている。2019年4月にヤマモトカンパニーを設立。執筆書籍に、「仕事ができる人は、小さめのスーツを着ている。」がある。
Illustration: Michiharu Saotome