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より開かれたパブリックな建築へ。
気鋭建築家ふたりが語る
新たな価値としての“別荘”とは?【後編】

2021.06.22

より開かれたパブリックな建築へ。<br>気鋭建築家ふたりが語る<br>新たな価値としての“別荘”とは?【後編】
「 森の離れ」(2020年)。軽井沢駅から数分、約2600㎡の敷地に立つ5棟は、最初はホテルの形態をとり、その後、別荘へ移行予定という。

これからの別荘はどのように変わるのか? 新規プロジェクトを模索する建築家に聞きました。

従来の別荘とは、ある特定の人が所有する特別な建物でした。維持管理していくにもコストがかかるため、購買層の中心は経済的に余裕のある富裕層。だからこそステータスとして所有することに意味があったのだと思います。ここ数年、軽井沢を車で走ると、美しい景色の中に朽ち果てた別荘をたびたび見かけます。それは風景として健全ではないし、もの悲しくなります。どんな建物も利用してないと傷みが進みますし、湿気の多いこの地域だとなおさらです。

軽井沢には私たちが15年前に別荘として設計した、「輪の家」があります。いまでは一棟貸しホテルとして使われています。空間が「映える」と、利用客がSNSにアップし、話題にもなりました。最近は大学の学生が宿泊したと聞いて驚いたばかりです。

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「 輪の家」(2006年)。森の風景に溶け込むようにたたずむ建築は、15年の時が経過した現在も色あせない。いまでは、宿泊施設として利用客が絶えないそうだ。(写真:阿野太一)

「輪の家」は当初、土地と一緒に分譲販売され、オーナーの手に渡りました。その後、多くの人にこの建物の魅力を知ってほしいというオーナーの粋な提案で現在の形態に移行。結果的には大成功となりました。泊まってみたいという人がこんなにいたことに設計した私もうれしいのですが、建物自体にとってもいいことだと思うのです。いろいろな人に空間がシェアされ、利用されたほうが、建築は生き長らえます。また、そこに需要があることが認知されれば、ビジネスとしても成立します。

私たちが軽井沢で設計したほかの別荘もいまでは多くの人が利用しています。ここ数年はレンタルビラ、貸別荘という形態も増え、今後、別荘はますますパブリックな存在になっていくのではないかと感じています。エアビーが人気というのもそうした時代背景の一端では。

じつは最近キャンプにハマっています。折り畳んで車で持ち運べるテントを見ていると、ある意味、これも別荘の在り方のひとつなのではと思うことがあります。これまでのように何かを所有する感覚とは違い、今後、「別荘」という解釈自体がどんどん拡大されていくように思います。

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©堀田貞雄

武井 誠
1974年、東京生まれ。建築家。東京工業大学塚本由晴研究室研究生+アトリエ・ワン、手塚建築研究所を経て、鍋島千恵とTNA設立。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了、博士(工学)。現在、京都工芸繊維大学 デザイン・建築学系 特任教授。

<<新たな価値としての“別荘”とは?【前編】

Edit&Text:Satoshi Miyashita

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