お酒
日本酒の新しい扉を開く5本と、
和光アネックス グルメサロンで出合う。
2021.09.30
「一年間酒造りをしないのはもったいないと心配してくれた蔵元さんが、次々と声をかけてくれて、自分のところの、蔵、水、米を使いながら、私の目指す酒造りをしていいという提案をいただいたんです。蔵を船に例えるなら、杜氏が船頭であり、私がコンパスを見て進む方角を決める、いわば、そんな酒造りでした。お互い前を向き、提案し合い、知らないことを掛け合わせていく。そんな作業の中で、酒造りも進化し、これまでにはない酒ができたと思います」と松本氏は言う。
最終的な酒の仕上げとして、どの蔵においても、中汲み直汲みという手法を採用した。日本酒とは、ご存じのとおり、発酵したもろみを圧搾して採取した液体であるわけだが、圧搾する際の、はじめと終わりを省いた、最もきれいな中汲みの部分だけを、搾りたてのまま、直接瓶詰めするというのがその手法だ。空気に触れないため酸化しにくく、風味の変化が防げる。
「この中汲み直汲みという技法ですと、原料である米や水の風味がディテールまで表現でき、よりダイレクトに感じられます。手間がかかるので、やる人が少ないのですが、今回5つの蔵元では、自分の証しを残したくて、あえて挑戦しました。実際仕上がりがよかったこともあり、たまたま商品化して和光さんで限定販売を、ということになりました。私自身は、酒は食事をおいしくするためのものと思っていますから、大変にありがたいお話でした」と、これが経緯である。
複数の蔵を行き来しながら仕上げた思い入れのある5本を、松本氏に、それぞれの特徴やこだわりを語ってもらった。
【メイン写真の左から】
■新政酒造×松本日出彦 直汲二0二0(新政酒造)秋田県産の美山錦を使って仕込みましたが、華やかな中に奥行きのあるうま味が潜む、とても私らしい一本に仕上がったと感じます。
■仙禽×松本日出彦(仙禽) 地元のさくら市のオーガニックで酒米・亀の尾を、食べる米程度にしか磨かずに仕込みました。力強さのなかにも、私が介在することで、いいあんばいに日本酒らしい軽さも出て、よくまとまりました。オーガニックでないとこうはいかず、米の力を感じます。
■七本鎗 木桶仕込み(冨田酒造) 琵琶湖湖北の玉栄(たまさかえ)という酒米を、富田酒造さんの仕込み水である伏流水で仕込ました。不思議なほど、伏流水と同じテクスチャーに仕上がり、うま味が強く余韻が長く続きます。
■田中六五 松本 (白糸酒造) 江戸時代から使っている羽根木という圧搾機で、てこの原理で石の重さで絞ることで、とてもまろやかに。米麹の力での甘さに頼らない、奥行きの深い滋味深さが魅力です。
■花の香 松本日出彦別誂(花の香酒造)ヤマダニシキをクマモト酵母で仕込み、水は5万年から3万年前の岩盤からの湧き水を使用。ミネラリーでありながら柔らかい仕上がりは、蔵、米、水の融合の賜物だと思います。
これらの5本は、松本氏のこれまでにない酒造りの手法が、各蔵元に残る米や水や自然へのこだわりを、よりピュアに引き出すことで、日本酒の新たな扉を開いた貴重な酒であると言える。それでいて、決して堅苦しいものではなく、料理の合いの手として、食事の時間をより豊かで甘美なものにしてくれる。そして美味しく楽しんだあとに、飲んだ人の中に希少なストーリーが残れば、こんなに素晴らしいことはない。家で過ごす時間が増えた今、こうしたクオリティーの高い日本酒と共に、秋の夜長を過ごしてみるのもいいだろう。
和光アネックス グルメサロン
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