特別インタビュー

株式会社 ビーグリー
代表取締役社長
吉田仁平インタビュー[前編]
[ニッポンの社長、イマを斬る。]

2022.04.22

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業界は及び腰、だけどニーズは確信していた

吉田の社会人生活は総合商社から始まった。学生時代、バックパッカーの旅で目にした光景がその進路に影響している。「アジアの辺境でもメイド・イン・ジャパンの製品が使われていたんです。日本の企業はすごいじゃないかと」。世界とのつながりを感じられる仕事を、そう考えて日商岩井(現・双日)に入社した。携帯電話を売り、通信技術のインフラ構築をし、シリコンバレーでベンチャー投資に携わり、30代にして子会社社長に就任。が、07年、そのキャリアをなげうって黎明期の電子コミック業界に身を投じた。なぜ、大手企業から実績のないITベンチャーに? そう聞かれるのはおそらく慣れっこになっている。

「IT業界のダイナミズムを身をもって体感してきたんです。小さな会社の従業員が数年で10倍以上になるのを見てきましたし、周囲には独立する社員も珍しくなかった。僕を誘ったのも日商岩井の先輩でしたしね。何よりコンテンツビジネスという事業に惹(ひ)かれた点は大きいです。商社のような組織が得意とするのはインフラであったり、規模の大きな投資です。コンテンツのように当たり外れの大きいビジネスに手を出すことは少なかったので」

ビーグリーの前身であるビービーエムエフはもともとモバイルゲームを展開する外資系企業だった。06年に日本市場に向け、『ケータイ★まんが王国』をスタートしたが、これがなかなか回らない。テコ入れのため、声が掛かったのが吉田だった。

「今後、ITをけん引するのはコンテンツなんじゃないか、そう感じた頃合いでもあった。これも縁だと考えたんですよ」

最初は苦戦続きだった。作品の許諾を得るためにマンガの出版社や取次業者を訪ねたが、ほとんど相手にされない。圧倒的な部外者感を覚える日々だったという。電子コミックを始めたら紙が売れなくなるでしょ──、そんな声はもとより、無名のベンチャーを信用してくれる会社はなかった。しかし、作品がないことには前に進まない。発想を変え、マンガ家に直接営業をかけた。契約上の問題はないことを確認したうえでの交渉だったが、これが火に油を注ぐ形となった。

「一般的な商慣習で言えば『問屋から仕入れられないから産地に直接声を掛ける』という発想です。けれど、出版社さんからすると『何をふざけたことを』という話になる。かなりのハレーションを起こしました」

一方で、多くのマンガ家は吉田の申し出に前向きだった。店頭に並べられる作品数は限られている。巻数が多かったり、旧作の場合はそこから外れがちで、読んでもらう機会も失われる。電子コミックならこうしたジレンマから解放され、読者の多様な趣味嗜好(しこう)にも応えられるのだ。

「作り手と読み手、双方のニーズは早い段階で確信していましたね。言い換えれば、どう推進していくかだけだったんです」

初めは旧作からスタートした。苦肉の末に生まれた作家からの直接仕入れ型のビジネスモデルだったが、後年には『まんが王国』の強みのひとつにもなる。電子コミック自体は新しい市場ながらガラケーの月額課金サービスの一環として組み込まれるなど好機にも恵まれた。09年には小学館、日本出版販売が資本参画。業界内の理解や認知も進んできたころ、累計ダウンロード数は1億冊を超えた。市場はガラケーからスマホに変わっていった。

プロフィル
吉田仁平(よしだ・じんぺい)
1971年福島県出身。実家が酒屋だったため、幼少のころから商売を身近に感じて育つ。早稲田大学理工学部卒業。1994年日商岩井(現・双日)入社し、2006年グループ会社であるモーラネット社長に就任。コンテンツビジネスに魅せられて、07年ビービーエムエフ(現・ビーグリー)入社。『まんが王国』の初期から携わる。同社・執行役員、取締役などを経て13年に代表取締役社長に就任。趣味はゴルフと旅行。

「アエラスタイルマガジンVOL.52 SPRING / SUMMER 2022」より転載

Photograph: Kentaro Kase
Text: Mariko Terashima

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