週末の過ごし方

先住民の暮らしに触れ、クルーズ船でフィヨルドの
壮大な光景に息をのむノルウェーの旅。

2025.10.30

先住民の暮らしに触れ、クルーズ船でフィヨルドの<br>壮大な光景に息をのむノルウェーの旅。
北欧旅行ではクルーズ船での旅も見逃せない。

自然を感じてリフレッシュできる北欧の旅。フィンランドに続き、隣国のノルウェーでの楽しみ方を紹介したい。

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フィンランドとノルウェーの国境。手前の左右にある青い標識の先がノルウェーだ。

フィンランドのレヴィから車でおよそ5時間。ノルウェー最北端の街のひとつ、アルタへ。ここはレヴィ同様にオーロラの街として知られている。

そんなアルタで見逃せないのが岩絵群だ。岩絵とは岩壁や洞窟内の壁面などに描かれた古代の絵のこと。アルタの岩絵群は、最も古いものでおよそ7000年以上前のものだと言われ、1985年にはユネスコ世界遺産に登録されている。

雄弁な岩絵から当時の暮らしに思いをはせる。

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アルタ博物館

世界的にも貴重な岩絵群は「アルタ博物館」で見ることができる。ノルウェー本土で唯一、権威あるヨーロッパ ミュージアム オブ ザ イヤーを受賞している博物館で、岩絵群のある屋外展示と、アルタの歴史などがわかる屋内展示があり、さらには眺望に優れたカフェ、ギフトショップを備えている。

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海沿いにつくられた遊歩道

アルタの岩絵として世界遺産に登録されているのは5つの岩絵遺跡で、イェメルフトと呼ばれるこの地域は、5つのなかで最も広大かつただひとつ一般公開されている遺跡だ。

ここでしか見られない貴重な岩絵群までは、整備された遊歩道を通っていく。岩絵は海沿いにあるため、海の絶景を眺めたり、心地よい海風を感じながら、次々に現れる岩絵を鑑賞することができる。

ちなみに屋外展示を鑑賞できるのは雪のない時期だけだ。

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岩絵が赤いのは、発見後に塗料で塗られたからで、もともとは無着色だった。東側では塗装されていない岩絵も鑑賞できる。

岩絵の鑑賞はリーフレットの解説を参照したり音声ガイドを頼りにする以外に、事前にガイド付きツアーを予約しておくのもオススメだ。

岩に描かれているのは、人間、トナカイ、ヘラジカ、クマ、犬、オオカミ、キツネ、ノウサギ、ガチョウ、アヒル、白鳥、ウ、オヒョウ、サケ、クジラ、船、道具、その他の工芸品や幾何学模様、形状など。

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展示の鑑賞後はカフェから見える景色を眺めながら、古代の人たちの暮らしに思いをはせるのもいいだろう。

単独のモチーフだけではなく、狩猟、罠猟、漁業、儀式、コミュニケーションなどのシーンとして描かれていることもあり、想像以上に雄弁だ。

これらは人々の思考や儀式、社会組織、技術、資源の利用について独自の洞察を与えてくれる重要な考古学的資料となっている。

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屋内展示は常設展のほか企画展が行われることも。

一方、屋内展示では、石器時代から現代社会に至るまでのアルタの長い歴史を紹介。岩絵や世界遺産、サーミ人とクヴェン人の文化、貿易、鉱業、オーロラ研究、伝統産業、アルタ川でのサケ漁などに関する展示を見ることができる。

また、夏季にはたき火でソーセージを焼いたりできるキャンプファイヤーや弓矢での射撃、トナカイの角や貝殻で飾り付ける石器時代のネックレスづくりなど、さまざまなアクティビティも用意されている。

展示やアクティビティを通してアルタをより深く理解できる場所が、アルタ博物館なのである。

ALTA MUSEUM
https://www.altamuseum.no/en/

スレート産業で有名なアルタで、切り出し体験にトライ

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ストリフェルト家の3代目、4代目として家業を守るふたり。

アルタはスレート産業でも有名な街だ。スレートとは天然の粘板岩を薄く剥いだ耐久性の高い建材のことで、ノルウェー国内のみならず世界各地で主に階段や床、屋根、ファサードに使用されている。

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スレートを割る実演は迫力満点。

アルタ渓谷を囲む雄大な山々にあるスレート採石場は、ヨーロッパ最大級の珪岩(けいがん)スレートの鉱床を有する。珪岩とは熱による変成で岩石に含まれていた石英が再結晶した岩石のこと。珪岩を使ったスレートは薄く軽量で、耐火性、耐久性に優れていることが特徴だ。

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切り出し体験。薄い石を少しずつ削っていき、コースターの形に仕上げる。

「ペースカトゥン」は、アルタ市の南にある山、ペースカの高台に位置するストリフェルト家が家族で経営するスレート採石場兼ビジターセンターだ。

ガイド付きツアーに参加すると、主要な観光スポットを巡り、最後にアルタ・スレート品質の石を自分で切り出す体験ができる。手動式の裁断機のようなものを使って、薄い石をガリガリと少しずつ削り、形を整えていくのだ。完成後はお土産として持ち帰ることができるのはうれしい。

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カフェでは高台から見下す景色を眺めながらコーヒーブレイクが楽しめる。

「ペースカトゥン」の敷地内にはスレート産業の歴史を物語るミュージアムや、眺めの良いカフェ、お土産が購入できるショップもあり、充実した時間を過ごすことができる。

Pæskatun
https://peskatun.no/

トナカイと直接触れ合う癒やしの時間

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ラーボと呼ばれるサーミ人の伝統的なテントの中で文化や伝統について語ってくれる。

ラップランドの先住民族であるサーミ人の文化と暮らしを紹介する体験型施設が「サーミ・シーダ」だ。

伝統の衣装をまとったサーミ人のトナカイ飼育者が語り部となり、何世代にもわたって継承されてきた生活様式や古来の慣習、信仰、伝統など半遊牧民文化を知ることができる。

また、ラーボと呼ばれる伝統的なテント内に展示されている、サーミ人の衣装や道具を見ることもできる。何世紀も昔に作られたものから、現在でも使用されているものまでが展示され、これらのモノからは、サーミ文化が自然との深いつながりを保ちながら、どのように進化してきたのかをうかがい知ることができる。

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この牧場のトナカイはどの個体も穏やかな性格でとっつきやすい。

サーミ人の生活にとってなくてはならない存在がトナカイだ。サンタクロースをイメージするとおわかりのようにソリを引く役割を担うなど、トナカイは何世代にもわたって人々の移動手段として利用されてきた。サーミの人々にとって動物の世話は最優先事項であり、それはここ「サーミ・シーダ」でも同様だ。

トナカイは一年中敷地内にいて、来場者は触ったり、手で直接餌を与えたりすることができる。もちろん一緒に記念写真を撮ることも可能だ。こうした触れ合いを通して、トナカイ遊牧民の暮らしを体験できる貴重な場所なのである。

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「サーミ・シーダ」内にあるレストラン。

「サーミ・シーダ」にはレストランも併設。サーミの伝統に基づいて調理された地元産のトナカイの肉料理などを楽しむことができる。

ほかにも季節によって、トナカイと一緒にサーミのソリ遊びを楽しんだり、たき火を囲みながら、土地の精神を響かせる伝統歌謡「ヨイク」の生歌を聴いたり、ラーボからオーロラを楽しんだり。トナカイを捕獲するために用いられる投げ縄投げに挑戦することもできる。

Sámi Siida
https://www.samisiida.no/

自然と共にラグジュアリーなひと時を満喫

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アークティック・ウィルダネス・ロッジ

アルタ川のほとりにあり、年間を通してノルウェーの自然を楽しめるラグジュアリーなリゾートが「ソリスニヴァ」だ。経営するのは1885年からこの地に暮らすヴィスロフ家。もともと農業とサーモン漁を営んでいたが、世界有数のサーモンフィッシングの名所として知られるアルタ川の魅力を多くの人々に伝えたいと考え、1970年にヨーロッパ最大の渓谷であるアルタ渓谷へのリバーボート体験を提供しはじめた。

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レストラン「ラーボ」でのランチ。「旬の野菜と魚を使ったクリーミーな魚のスープ」

そして、これをきっかけにさまざまなサービスを展開。現在では、サーミ人のテントをモチーフにデザインされたレストラン「ラーボ」、2021年に完成した「アークティック・ウィルダネス・ロッジ」、アイスホテル「イグルーホテル」(開業期間:12月上旬〜4月上旬)を備え、さらには北極圏の四季を積極的に満喫できる荒野のアドベンチャー体験を提供している。

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アルタ川でのリバーボート体験

例えば、「ソリスニヴァ」の原点とも言えるリバーボート体験。防水のつなぎに着替えてライフジャケットを着用したら、伝統的なロングボートに縦一列に乗り込み、出発。ガイドがボートを操縦しながら、アルタ川の魅力を解説してくれる。

風を切って進むボートは爽快感抜群。迫力満点の渓谷の風景だけでなく、野鳥や釣りに興じる人たちの姿なども見ることができる。

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「アークティック・ウィルダネス・ロッジ」のリバースイート

ほかにも乗馬体験や、タラバガニ探し、大自然を上空から眺めるヘリコプター体験、アルタ川でのアイスバスや、スノーモービルなど、さまざまなアクティビティが用意されている。

せっかくなら部屋からアルタ川の絶景を望む「アークティック・ウィルダネス・ロッジ」に宿泊して、ゆったりとした時間を過ごしたい。

Sorrisniva
https://www.sorrisniva.no/

農業の伝統とキャビン文化を体感できる、ロッジでの宿泊

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「ビョルンフィエル・マウンテン・ロッジ」のプライベートキャビン

ノルウェーの農業の伝統とキャビン(木造の小屋)文化との深いつながりを感じられる宿泊施設が「ビョルンフィエル・マウンテン・ロッジ」だ。かつての農民は、毎年夏になると家畜を連れて山へ放牧に出かけ、小さなキャビンで暮らし、自家製フードや摘んだベリー、自然の恵みに頼って生きていたという。今でもノルウェーの人たちは平均で年間60日をキャビンで過ごす。

そんな本物のノルウェーキャビンライフスタイルを「ビョルンフィエル・マウンテン・ロッジ」で体験できるのだ。

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プライベートキャビン。窓際に横たわれば、室内にいながら自然を間近に感じられる。

滞在はメインロッジの客室もしくは、5つのプライベートキャビンから選ぶことができる。ノルウェー伝統のライフスタイルをよりしっかり体験するなら、やはりプライベートキャビンに泊まりたい。ロフト付きで室内には暖炉やキッチンも完備。ここで暮らしているかのように自由に過ごすことができるのだ。

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メインロッジのラウンジスペース。
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ボイルドサーモンは、上にかかったサワークリームソースとの相性抜群だ。

メインロッジのレストランでは、地元の漁師やトナカイ飼育者から調達した食材をはじめ、可能な限り、地元産やノルウェー産の旬の食材を使った料理を提供。伝統的なレシピにインスピレーションを受けてアレンジされたモダンで独創的な料理が人気だ。

ただ宿泊するだけではなく、アルタ渓谷へのガイド付きハイキングなどが組み込まれたパッケージ付きプランも用意されているので、旅の目的に応じて選択したい。

Bjørnfjell Mountain Lodge
https://bjornfjell.com/

雄大なフィヨルドを間近に望む北欧クルーズ

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クルーズ船から望むフィヨルド。

ノルウェーと言えば、世界的に有名な観光資源はフィヨルドだろう。氷河によって数万年かけて削られたこの複雑な海岸線は、自然の雄大さを存分に感じられるものだ。

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ノルウェー北部のホニングスヴォーグに停泊する「ハヴィラ・ボヤージュ」のクルーズ船

このフィヨルドを間近で見られる手段のひとつがクルーズ船の旅だ。「ハヴィラ・ボヤージュ」は、ノルウェー西部のベルゲンと北部のキルケネス、つまりはノルウェーの海岸線の端から端を結ぶノルウェー沿岸高速航路の運航をノルウェー政府から正式に委託された2社のうちの1社。

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船内のインテリアは海、空、山、氷河からインスピレーションを得てデザインされている。

ノルウェー高速航路自体は130年の歴史があるが、「ハヴィラ・ボヤージュ」が就航したのは2021年。船舶はモダンなデザインの最新型だ。快適な船旅ができるだけでなく、LNG(液化天然ガス)とバッテリーで航行するなど環境にも配慮された船になっている。

船内には自由に過ごせるラウンジをはじめ、フィヨルドを間近で見られる展望ラウンジや屋外ジャグジー、ジム、サウナ、土産物や旅行の必需品を購入できるショップなどを完備する。季節によってはオーロラを見られることもあるだろう。

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ノルウェーの農場で育てられたアヒル肉の料理

レストランは2軒あり、ほかにもカフェ、パノラマバー、屋外バーが用意されている。

提供される料理は、海岸沿いの土地を象徴するもので、全航路を4つのパートに分け、3日ごとにメニューが変更されるため、日々好奇心を満たす魅惑の食体験が待っている。

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ノルウェー北部のキョレフィヨルド港

「ハヴィラ・ボヤージュ」では、最長でベルゲンからキルケネスまでの12日間にわたる航海の間、昼夜を問わず34の沿岸港へ停泊する。港ごとの景観の違いも見どころのひとつだ。

カラフルな建物や港で働く人々の様子など、各港には日本人には見慣れない景色が広がっている。

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客室では手紙を書いたり、多忙なビジネスパーソンであれば、メールの返信などもできる。

今回はホニングスヴォーグからキルケネスまでの12日の航海に参加した。客室にはダブルベッドのほか、机と椅子やシャワーなども完備。窓から見える大海原やフィヨルドの景色を眺めながら、ゆったりと過ごすことができる。とはいえ、実際には客室以外の場所で過ごす時間がほとんどだった。

展望ラウンジでは間近に迫るフィヨルドに圧倒され、レストランではたそがれ時の美しい光に照らされた海上の風景と共に、ディナーを楽しむことができた。真夜中にひとりで屋外ジャグジーに入っている人もいて、過ごし方は自由だと感じた。海上での極上の旅を思うがままに楽しみたい。

HAVILA VOYAGES
https://www.havilavoyages.com/

Text: Hiroya Ishikawa.

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