週末の過ごし方
ウツグミの島へ。
岸谷五朗が綴る物語。[前編]
2025.12.12
俳優・岸谷五朗が綴(つづ)る小説に、そこからインスパイアされたビジュアルストーリーを添えるシリーズ企画。風光明媚(ふうこうめいび)な竹富島の〝大きさ〟に触れ、男は人生を取り戻す――。
※「ウツグミ」とは、竹富島に伝わる人と人の結び付きを大切にする「一致協力」の精神。
再生の「島時間」。[前編]
作・岸谷五朗
人に「純粋な笑顔」をほどこし共に生きていけたら……。漠然とそんな「当たり前」に生涯を捧げたいと思い目指した職業は弁護士。無我夢中、努力の熱量では誰にも負けない日々を仕事に費やし、今では「先生」と当たり前に呼ばれ、それ相応の地位と名誉、富を得た。
誰でもそうかもしれないが、追い風に乗っている時期はがむしゃらとなり向かってくる波は蹴散らし、風は吹き返す、爆走する力に漲(みなぎ)った意志は、時を乱雑に切り裂いていく。そして、ふと気づく。周りからの尊敬の念とは別物の「こんな筈(はず)ではなかった」と想う、自分だけの心になぜかポッカリ空いた空洞のような虚無感……。「やる気」のようなものが消えた。
何も考えず、旅立ってみた……。南の果てに辿り着いた地は「星のや竹富島」。手積みの石垣が人生の航路のように道を作り、琉球赤瓦の家々を縫うように誘導してくれる。踏みしめる白砂が奏でる音に耳を傾ける。それは一歩ずつ歩んで来た人生の軋(きし)み。
太陽を全身で感じ、目を閉じて歩く……。自分と向き合う「時」をくれる島。大きな空と大地が、小さな私のすべてを包み込んでくれた時、気づく。──この大きさが、私には無かった。
眼の前の案件と向き合うことで、いつしかそれは相手を倒すことに執着し、笑顔を作ることが醜い戦いへと変化していくことに鈍感になり、それを正当化し正義とした。弁護士として当たり前なのかもしれないが、欲しかった「純粋な笑顔」は「苦渋の涙」と共存し無情にも遠のいてしまった。
再生の「島時間」。[後編]に続く[近日公開予定]>>
岸谷五朗(きしたに・ごろう)
東京都出身。1983年、大学在学中に劇団スーパー・エキセントリック・シアターに入団、舞台を中心に活動をスタート。94年に寺脇康文とともに演劇ユニット「地球ゴージャス」を結成、すべての作品で演出を手がけるほか、ほとんどの作品で脚本も執筆、累計120万人の観客動員を超え、テレビ・映画でも多彩な活躍を見せる。
Photograph: Yuji Kawata(Riverta Inc)
Styling: Eiji Ishikawa(TABLE ROCK.STUDIO)
Hair & Make-up: Taichi Nagase(VANITÈS)