紳士の雑学

「ネットショップ開設のリスク」をゼロに、
次は「資金調達のリスク」をゼロに
BASE株式会社 鶴岡裕太代表取締役インタビュー[後編]

2019.05.28

「ネットショップ開設のリスク」をゼロに、<br>次は「資金調達のリスク」をゼロに<br>BASE株式会社 鶴岡裕太代表取締役インタビュー[後編]

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鶴岡には創業当初から考えていたことがあった。決済と金融への参入だ。業界的に取引先は大きな会社ばかり、同社が対象にするような個人事業主には門戸が閉ざされていると感じていた。Eコマースプラットフォーム「BASE」の立ち上げから数年のうちには、購入者向けのID型決済サービス・お支払いアプリ「PAY ID」や事業者向けの「PAY.JP」といったオンライン決済代行サービスをリリース。簡単に設定でき、費用も安いのが特徴だ。

続く2018年12月にはショップオーナーに向けた資金調達サービス「YELL BANK」をスタート。資金を理由にこれまでチャレンジできずにいた人たちの次の一歩を支援したい、という。「ネットショップを作るリスクはいまの日本でほとんどなくなったと言っていい。けれど、資金調達に関してはまだまだハードルが高いですよね。リスクなしでできる方法はないかと考えていたんです」

YELL BANK」は即時に資金調達ができる、そこだけでも画期的なシステムだが、支払いが発生するのは商品が売れたときのみ。仮に商品が売れなければ1銭の支払いも発生しない。

「BASEを使うと未来の売り上げを予測できる。そのうえで未来に発生する債権を買い取るという考え方なんです。出資額はショップに応じて1万円から1000万円まで。現時点では一部のショップのみへの公開ですが、最終的には全ショップに提供したい。理想的にはショップに登録すると同時に、未来の売り上げを予測できるようにしたいですね」

誰かに喜んでもらえること、それが仕事の絶対条件

これまで見てきたようにBASEのサービスは一貫してブレがない。「いま現在、大きい企業ではなくこの先、世の中の中心となっていくような方々の第一歩目を支援したいという考え方。そのために何ができるか? 『彼らのリスクをいかに少なくするか』がいちばんのテーマなのかなと。金銭的な面はもちろん、技術的な面でも」

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一方、「新しいことだらけで、一瞬にしてこの6、7年が過ぎたかなという感覚はあります」とも言う。会社勤めの経験すらなく、当初は会社がどういうものなのか、経営者が何をするものなのかもわからなかった。

「人が増えていくなかで情報共有がうまくいかないとか、働く環境の整備が追いつかないとか、あらゆる問題が発生しましたからね。僕自身、プロダクトに対しては『絶対にこうしたい!』という思いがありますが、会社運営に関しては『こうしたい』と考えるような余裕はなかった。その場その場で最適な方法を探す、優秀なメンバーに支えられながらここまでやってきた感じでしょうか」

最初は単純にコードを考えるのが楽しかった。仕事というより趣味の感覚でBASEのサービスを始めた。そんな場所から遠く離れ、22歳で経営者になるということ。道中、葛藤やストレスはなかったのだろうか。

「事業が成長していくなかで僕が変わらずコード書いていたら、会社として終わってますよね(笑)。プロダクトそのものに触れている時間はいまも好きですが、(小さなチームを支援するという)テーマ感そのものが楽しいんです。仕事の内容には、こだわりがなかったのかもしれません」

その仕事観は中学生のころの体験に基づいている。一時期、不登校だったという鶴岡だが、母は何も言わず、劇団四季の舞台へと連れ出した。「感動しましたね。演じている人も観ている人も一所懸命。観客は幸せな気持ちで家へと帰る。誰かに喜んでもらえる、自分もこういう働き方がしたいなって。それが仕事をする絶対的な条件になったんです」

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プロダクトを作る以上は楽観的じゃないとダメ

昨年秋、六本木グランドタワーに移転した。37階。東京都下を一望し、晴れた日は遠く富士山を望む。「越してきたとき、武者震い、しませんでしたか?」そんな問いにも笑って返し、不思議な話をしてくれる。現オフィスの会議室入り口にあるのは「YANAGI」「SHINTAISO」「ROPPONGI」といったカッティングシート。何のことかと思えば、かつて事務所があったビルの名前だという。「創業したばかりのころ、実はこの場所(六本木グランドタワー)にあった雑居ビルにいたんです。堀江さんも昔いた『柳ビル』って有名なビルだったんですけど。しばらくして立ち退きになって僕らは引っ越し、跡地にこのグランドタワーができました。戻ってきた、みたいな感じはありますかね(笑)」

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インタビューの後、鶴岡は広報の女性と共にエレベーターまで送ってくれた。過去の取材を振り返り、社長自ら見送りに来るケースはあっただろうか、と考える。黒いパーカーの下、彼はほとんど黙っていたが「いたって普通のこと」と捉えている気がした。鶴岡の先の言葉がよみがえる。

「プロダクトを作る以上、絶対に楽観的じゃないとダメだという確信みたいなのがあって。明日成功するのか、20年後になるのか、それはほぼ運に近いですけど、その運の可能性を少しでも上げたいならやっぱりやりつづけるしかないんですね。今後小さい会社、小さいチームが主役になる、そういう時代が来るのは確実ですが、それがいつ来るのか。いかに早くできるか、僕らはそこを頑張りたいんです。そのためにはやりつづけるしかないと思っています」

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プロフィル
鶴岡裕太 BASE株式会社代表取締役CEO
1989年生まれ。大分県出身。東京工科大学3年生のとき、家入一真氏率いるハイパーインターネッツ(現CAMPFIRE)でのインターンを経て2012年12月、BASE株式会社を設立。16年にForbes が選ぶ「アジアを代表する30歳未満」の小売り&Eコマース部門、18年にはForbes JAPANの日本の起業家BEST3位に選出された。

Photograph:Kentaro Kase
Text:Mariko Terashima

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