特別インタビュー
株式会社 ビーグリー
代表取締役社長
吉田仁平インタビュー[後編]
[ニッポンの社長、イマを斬る。]
2022.04.28
売上高は前期比1・5倍、会員数は600万人突破!電子コミックの黎明期に誕生した「まんが王国」の勢いが止まらない。2006年にスタートしたサービスは今や国内最大級へ。エンタメ業界が注視する上場企業はどこに向かうのか。ビーグリーの吉田仁平社長に話を聞く。

過剰な広告競争から脱出、原点に立ち還る
吉田は2013年に社長に就任した。「といっても、『ついに社長か!』みたいな感慨はありませんでしたよ(笑)。組織の再編があり、創業者の離脱がありと紆余(うよ)曲折を経たわけですが、そのころには電子コミックが会社の軸になっていました。初期から関わってきた身の上として、使命感というのか、もっと大きくしてやるという覚悟に近い気持ちがあったというのか」
ガラケーからスマートフォンに移行する際はサービスの変化を余儀なくされた。小さな画面で1コマずつスクロールしていた時代からページ単位でマンガを読む時代へ――。電子コミック市場はこの年で10倍ほどに成長し、現在4000億冊超の規模となっている。その過程でバナー広告を打てば打つほど会員数が増加する時代に突入したが、過剰な広告競争に吉田は懸念を感じてもいた。
「電子コミックは課金されやすいビジネスモデルです。規模の拡大を追うだけなら大量の広告を投じればいいわけですが、他社さんも条件は同じ。ネット広告は入札式なので競争が激しくなれば広告費も跳ね上がる。要は自分たちの首を絞めていく構造です。投資効率はもちろん、市場の健全な成長を考えてもこれは何かが違うと思いました。『新規ユーザーを開拓するだけの競争』から『ユーザーを奪い合う競争』へ、やがては変わる日が来る。戦い方を変える必然性を痛感しましたね」
19年から吉田はビーグリーの中期経営計画を「コミック配信会社からコンテンツプロデュースカンパニーへ」に定めた。翌年にはマンガ出版に強いぶんか社グループを子会社化。業界の話題をさらったM&Aについて「作品が生まれる場と作品を売る場、垂直型の連携を目指した」という。
「『まんが王国』はユーザー動向をはじめ、作品創出に生かせるビッグデータを持っています。それらを加味したオリジナル作品が今度はユーザーの来訪動機やリテン
ションにつながっていく。売り場と作り場の両輪で回す、そのシナジー効果がグループとしての構想としてありましたね」
メディアミックスを推進する同社は21年、さらに日本テレビと資本提携。バリューチェーンを再構築していくなかで「ITを率いるのはコンテンツだ」、その原点をかみ締めてもいる。