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『クイーンズ・ギャンビット』
いま観るべき、おしゃれな海外ドラマとは? #26

2022.07.07

『クイーンズ・ギャンビット』<br>いま観るべき、おしゃれな海外ドラマとは? #26

配信開始から1カ月で、全世界6200万世帯が視聴したという驚異的な数字を生み出したNetflixオリジナルドラマ『クイーンズ・ギャンビット』。

9歳の少女が母親を亡くし、預けられた養護施設でチェスに出合い、男性ばかりのチェス界で世界の頂点を目指す。全7話とコンパクトな仕立てでありながらも、緻密に描かれる人物描写、どのシーンを切り取っても楽しめるレトロな建築や衣装の数々、緊迫しながらもリズミカルに描かれる見ごたえのある対局シーン……。魅力はいくらでも語れてしまう。

極めつきは、主人公エリザベス・ハーモンを演じたアニャ・テイラー゠ジョイのアンニュイななかにも強く、自信に満ちあふれている上目づかい。これでもかと、視聴者を画面に引き込んでゆく。

エリザベス・ハーモン(以下、ベス)の物語は、いわゆる母を亡くした不運な少女が、涙ぐましい努力を積み重ね、世界に羽ばたいていく「感動ストーリー」とは少し違う。

精神が不安定だった母の影響か、ベスは人に甘えられない、愛想のない子どもだった。まだ幼いベスに、「誰よりも強いのは、孤独を恐れない人間だ」「行動や感情を指図してくる人たちは問題だ、知らぬ間に人生を無駄にしてしまう」「いつか独りになるから、その時に備えなさい」などと言い聞かされていたため、人に期待をすることがなかった。

母の死後に預けられた養護施設では、子どもたちを扱いやすくするために、毎日精神安定剤が配られていた。ベスはその「緑の薬」で頭をスッキリさせ、夜な夜なチェス盤を天井に思い浮かべては、試合のシミュレーションをしていた。

やがてその薬の危険性が問題視されたのか、子どもに対しての投薬が禁止され、養護施設でも配られなくなった。だが、時は既に遅し……。もうその薬がないとチェスを楽しむことができないと思い込み、医務室に残っていた薬をありったけ盗もうとするほどに、ベスは依存症に陥っていたのだ。

薬を盗もうとしたことで、チェスをすることを禁じられ退屈していたベスだったが、14歳になったときに転機が訪れる。里親が見つかり、養護施設を出ることになったのだ。これからすてきな生活が訪れるのか? そう思いきや、なかなかひと筋縄ではいかなかった。

養母のアルマは身体も精神も病弱で、アルコールに溺れていた。そして、あろうことか養護施設で配られていたあの「緑の薬」を飲んでいたのだ。ベスはまた薬に手を出しはじめ、自身の健康を犠牲にしながらチェスに没頭してゆくのだった。

次ページ自身を犠牲に戦うベスが手に入れたものとは?

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