腕時計
SIHH2018 ジュネーブサロン・レポート
エルメス
2018.02.07

新作時計の初春到来を高らかに告げる恒例の「SIHH(ジュネーブサロン)」が1月15日から19日まで開催された。昨年は毎年3月に実施される「バーゼルワールド」からジラール・ペルゴとユリス・ナルダンが移行。今年もエルメスが新しく参加したほか、カレ(Carre des Horlogers)と呼ばれる特設会場に17ブランドが出展。大型パビリオンを構える18ブランドと合わせて、過去最多となる35ブランドが競演した。ラグジュアリーな雰囲気の中で静かな熱気が漂う会場で発表された新作から、魅力的なモデルを紹介していこう。
サイズアップした「カレ アッシュ」はアラビア数字に注目!
エルメスは1837年に馬具工房としてスタート。自動車時代を予見して事業を多角化していった。時計もスカーフに先立つ1920年代から手がけており、78年にはスイスのビエンヌにラ・モントル・エルメス社を設立し、時計製造を本格的に開始。今年で40周年を迎える。
機械式時計も2003年から本格的に取り組んでおり、ファンタジックな発想による独創的な複雑時計も開発してきたが、今年は「特別な時間」をアーティスティックなオブジェとして楽しめる新作が登場した。中でも2010年に製作されたスクウェア・フォルム(正方形=カレ)の「カレ アッシュ」がリニューアル。アッシュは仏語で「H」を意味するが、それはまたエルメスの頭文字でもある。
ケースを数ミリ大きくすることで、各部の光が織りなす陰影を強調。さらに、オリジナルのタイポグラフィに「0」を加えることで、幾何学的なバランスを完全に調和させていることにも注目したい。アワーマーカーの数字は1から9まで一ケタだが、それを10からと同じく「01」「02」などと二ケタに統一して丸型ダイヤルに沿わせている。エルメスらしいデザイン的なこだわりに加えて、ケースは艶を抑えたマットなマイクロブラストだが、そのエッジは輝きのある鏡面のポリッシュ。直角で構成されたダイヤルの彫り模様の上にはファセットを施した時分針を配置するなど、ディテールを精緻なコントラストで仕上げており、立体感も高い。
また、時計事業を本格化した78年にアンリ・ドリニーが生み出した「アルソー」のクロノグラフに、軽量で強度の高いチタンケースの「アルソー クロノ チタン」を追加。丸型のフォルムに、鐙(あぶみ)から着想したアシンメトリーなラグ、風になびくように傾斜したタイポグラフィを特長とするコレクションだが、マイクロブラスト加工のマットなグレーカラーによって精悍でスポーティなイメージとなった。
男女ともに着用できる小径36㎜で2針のクォーツ・モデルであり、シャンルベやラッカーなど複数の技法を駆使した「アルソー カザック」も紹介しておきたい。黄色や青、赤などの原色が弾むように感じられるダイヤルが鮮やかであり、エルメスの並外れた美的感性を存分に発揮した新作といえよう。
©Calitho
「カレ アッシュ」。自動巻き(キャリバーH1912)、ケースはステンレススチール、サイズは38×38㎜、3気圧防水、\775,000(税抜き予価)、2月頃エルメス銀座店にて先行発売予定。©Calitho
「アルソー カザック」。スイス製クォーツ、ケースはステンレススチール、直径36㎜、3気圧防水、\409,000(税抜き予価)、5月頃発売予定。
掲載した商品はすべて税抜き価格です。
問/エルメスジャポン Tel.03-3569-3300
プロフィル
笠木恵司(かさき けいじ)
時計ジャーナリスト。1990年代半ばからスイスのジュネーブ、バーゼルで開催される国際時計展示会を取材してきた。時計工房や職人、ブランドCEOなどのインタビュー経験も豊富。共著として『腕時計雑学ノート』(ダイヤモンド社)。