旅と暮らし

ほどよいカジュアルさとシンプルな美味に話が弾む『否否三杯』
[状況別、相手の心をつかむサクセスレストラン Vol.09]

2019.01.15

写真・図版 小松宏子

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なんといっても、場所が便利だ。タクシーで迷いながら訪れる隠れ家レストランでの接待もときにはいいが、サクっと食べて飲んで、腹を割って話してという、使い勝手の店も当然必要。否否三杯(いやいやさんばい)──いやいやと言いながら、つい三杯、四杯と飲んでしまうの意──は、まさにそんな店である。

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青山一丁目駅直結の便利さが圧倒的

2018年9月、築四十余年の青山ビルヂングが一大リニューアルし、地下鉄から直結となり、地下1階には7軒の店が並ぶレストランフロアがオープンした。ニューヨークで話題の建築家が手がけたトータルなデザインがなかなかすてきだ。大手町などの大きな駅と違い、地下鉄のホームから店までものの5分とかからないのだから、うれしい。

通路に対して開かれた店内は、およそ3つのブロックに分かれている。手前のハイチェアのロングテーブルエリアはごくカジュアルで、ランチや一人飲みもOK。向かって左側は使いやすいテーブル席。そして今回紹介するのが、右奥のカウンター席だ。少人数での親密な会話を楽しみたいなら、こちらがいいだろう。

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グローバルに和食の魅力を発信する中東篤志さんがメニューをプロデュース

メニューを手掛けているのは、中東篤志(なかひがし・あつし)さん。名前を見てぴんと来る人もいるかもしれないが、京都の「草喰(そうじき)なかひがし」のご主人・中東久雄さんを父に持つサラブレッドだ。ニューヨークの割烹「嘉日」で副料理長を務めたのち、現在は、ニューヨークと東京、京都を行き来しながら、レストランのメニュー開発から食材の普及まで、活躍の場を広げている。グローバルに通用する和食の魅力を発信することで、高い評価を得ている。

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「否否三杯の料理を任されるにあたって心がけたのは、おいしすぎないということです。だしや調味料に頼りすぎずに、素材の味を引き出すことを一番に考えました。例えば大根なら大根の味そのものがストレートにわかるといった具合に。ニューヨークに比べても、世界中のおいしいものが集まる東京において、あえてシンプルな料理を選んだのです」と中東さんは言う。

鉢に盛られたおばんざいや、壁にかかった木札からお好みでオーダーするのも楽しいが、初めてであれば、おまかせコースを薦める。

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5000円で大充実のおまかせコースで否否三杯の真価を堪能

「晴々」という5000円のコースは、ボリュームもバリエーションも満点。まずは、おばんざい5種盛り合わせから始まり、 旬魚のお刺身、自家製すくい豆腐、 赤牛と季節野菜の炭火焼、 二色生麩の揚げ出し、手羽の白味噌辛揚げ、 南蛮漬け。最後は炊きたて釜炊きご飯と具沢山味噌汁で締め。和食の素晴らしさを再認識するとともに、きちんと作られたものは身体が喜ぶことを改めて知るメニュー構成だ。

今日のお造りは、八海山の伏流水で育てたますを塩糀(しおこうじ)に漬けたもの。ねっとり濃厚で、ほのかな甘みがなんともあとを引く。添えたかぶの浅漬けとのコントラストも抜群だ。ぎりぎりのかたさに固めた自家製の豆腐にほっとしたら、次は香ばしく焼けた赤牛のうまみをガッツリとかみしめたい。続く生麩の揚げ出しは、粋な京都の味。

実は、中東さんが腕を振るった「嘉日」は、京都の麩の専門店「麩嘉(ふうか)」が出店した店である。中東さんいわく「フードマイレージのことも考えて、なるべく東京や近郊の素材を使いたいと思いますが、いい水があって初めてできる生麩だけは京都のものでないとダメなんです」と。

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続く手羽の白味噌辛揚げは、京料理とアメリカ料理のいいとこどりをしたオリジナル。アメリカ人が大好きなバッファローウィングのたれを白味噌ベースの甘辛い味に仕上げてあり、やみつきになりそうだ。

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米にこだわった釜炊きの白ご飯で締めくくる喜び

どの料理もおいしいけれど、締めの白ご飯はまた格別だ。

「日本人なら米のおいしさを大切にしてもらいたい、そんな思いを込めて炊きたてのご飯が味わえるように、ひと組ずつ釜炊きすることにしました」とも。

小さな釜のふたを開けて、炊きたてのご飯をしゃもじですくう瞬間の心はずむこと。米のうまみが口いっぱいに広がる。米は、東京の水に合わせて京都の「八代目儀兵衛」が選んだ、甘すぎずさらりと食べつづけられるブレンド米。炊きたてのご飯には、大ぶりに切った根菜がごろんと入った味噌汁が付く。たっぷり野菜がとれるのも、接待が続く身にはうれしい。

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国産にこだわったアルコールのラインナップに心弾む

否否三杯ではお酒も国産にこだわっている。人気沸騰で品薄なジャパニーズウイスキーも6~8種ほどそろえるほか、国産のクラフトジンはもとより、国産ウォッカや国産のラムなどなかなかお目にかかれないものまでセレクトされている。食中酒として楽しむだけでなく、締めの一杯に勧めてみれば、また、気が利いている。すだちをたっぷり絞り込んだ酎ハイや焼酎の緑茶割りなど、ひと味違う焼酎のアレンジも食が進む。

ダイレクトに心に響く、どこか懐かしい美味と、うまい酒。これ以上、何を求めよう。カジュアルだからこそ、気取りなく、腹を割って話せることもある。否否三杯にはそうした効用もあるに違いない。

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Photograph : Makiko Doi

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